アーネスト・クライン『ゲーム・ウォーズ』『アルマダ』

書誌情報


書評

オタクなら誰もが学生時代に思い描く中二病的白昼夢がある。「危機が訪れて、自分のオタクスキルで無双出来ればいいのに」というものだ。この痛々しいとも思える妄想を見事に作品に落とし込み、古今東西おんなじニオイがするオタクはどこにでもいるんだぞ、と教えてくれるのがこの『ゲームウォーズ』と『アルマダ』だ。

世界最大の没入型オンラインヴァーチャルゲーム「OASIS」の開発者が遺した莫大な財産を巡る史上最大の宝探し競争を描いた『ゲームウォーズ』。「OASIS」開発者が愛した80年代サブカルチャーをヒントに、ゲーム中の3つの鍵を最初に集めた者にその遺産のすべてと「OASIS」の運営権が与えられるということで、世界中のオタク・ゲーマーだけでなく、「OASIS」乗っ取りを企む巨大悪徳企業までもが宝探しに参加した。謎解きに難航し、最初のクエストの手掛かりすら見つけられないまま4年がたったころ、主人公ウェイド(=パーシヴァル)がついに最初の鍵を手に入れた。一躍有名人となったウェイドのもとに巨万の富に目がくらんだ人間が擦り寄り、虚構の世界に遊んでいたウェイドは現実での争いへと否応なしに巻き込まれていく。

どこにでもいるようなただのオタクだったウェイドが、仲間と出会い、恋をし、自分の愛する「OASIS」を守るために巨大悪徳企業と戦い、目覚ましく成長していく。ひとりの少年の成長譚としても、作品愛にあふれたオタク作品としても楽しめる。あの有名ヒーローが登場する最終決戦は必見。

主人公の凄腕高校生ゲーマー、ザックがある日教室から空飛ぶ円盤を見つける場面から始まる『アルマダ』。その円盤はザックが夢中になっているゲーム「アルマダ」に登場する敵宇宙人の宇宙船にそっくりだったのだ。白昼夢だと思い信じていなかったザックだったが、ある日校庭に宇宙船が降り立ったことで、生活が一変する。これまで夢中になっていた「アルマダ」は異星人の侵略に備えた一般人向けの訓練プログラムであり、ザックはエースパイロットとして地球防衛同盟軍にスカウトされたのだった。

現実から目を背けがちだったザックは、次第に陰謀論とゲームを通じて自覚した現実の問題へと目を向けるようになり、自分の役目を果たそうと必死に努力を重ねる。終盤で新たに明かされる真実もあり、最後まで見逃せない。

どちらの作品にも名作SFが数多く登場する。読んでいる最中に自分の好きな作品が出てきて、しかもそれが物語の重要な鍵となっていた時の面白さは、ほかにない。


書評メタデータ

本稿は《SFG》Vol.1(2018.11)に掲載された書評の再録である。


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